妊娠ホルモン「リラキシン」の高効率合成に成功 ~人工リラキシンが子宮内膜症創薬戦略の新たな一手に(荒井堅太准教授、岩岡道夫教授)
妊娠可能年齢の約10%の女性が罹患しているとされる子宮内膜症は、月経困難症、性交疼痛症、排便障害などを誘発し、女性のクオリティ・オブ・ライフを著しく低下させます。本共同研究グループは、2020年に妊娠ホルモンとして知られるヒトリラキシン-2(以下、リラキシン)が、子宮内膜症の緩和効果を持つ可能性を報告しており、リラキシンの薬剤応用への期待は急速に高まっています。この度、東海大学と山梨大学の共同研究グループは、リラキシンが持つ3対のジスルフィド(SS)結合のうち1対を類縁のジセレニド(SeSe)結合に置き換えた2種類の人工リラキシン(以下、セレノリラキシン)の化学合成に初めて成功しました。効率よく合成されたセレノリラキシン各種も子宮内膜症に対して同様の薬理学的効果を示すか否かは興味深いところです。今回、本研究グループは、患者由来の子宮内膜間質細胞に対するプラスミノーゲン活性化抑制因子1(PAI-1)の発現抑制効果に焦点を当て、セレノリラキシンの機能評価を行いました。PAI-1は、組織の線維化において重要な役割を果たし、子宮内膜症の発症に関与しているものと考えられています。PAI-1のmRNAの発現量は、合成リラキシンで処理したすべてのグループにおいて、有意な減少をみせました。特筆すべきは、2種のセレノリラキシンは野生型のリラキシンよりも効果的にPAI-1 mRNAの発現を抑制したことです。これらの結果は、PAI-1の生産抑制という観点からセレノリラキシンの高い子宮内膜症抑制効果の可能性を示唆しています。
本研究は、東海大学の理学部、工学部の研究者および山梨大学の研究者による共同研究による研究成果です。今後、セレノリラキシンの子宮内膜症治療薬としての利用に期待が高まります。
本研究成果は、6月14日(金)付でイギリスの国際化学誌『RSC Chemical Biology』電子版に掲載されました(https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/cb/d4cb00095a)
また、6月20日に東海大学と山梨大学から共同プレスリリースを行いました(https://www.tokai.ac.jp/news/detail/post_508.html)。