ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYbなどの重希土類元素(ランタノイドの後半の元素)を用いたアップコンバージョン蛍光体を合成しています。980nmの近赤外光によって励起し、青・緑・赤の可視光で発光するという、珍しい発光特性をもっています。

重希土類系アップコンバージョン発光現象は、希土類元素中のf軌道を利用して行われます。3価のイッテルビウムYbイオンは980nmの光を吸収できるf軌道準位を持ち、そのエネルギーをエルビウムEr、ホルミウムHo、ツリウムTmへと渡すことができます。Er、Ho、Tmは多くのエネルギー準位をもち、多段階励起されることで980nm以上のエネルギーに相当する準位へと電子が励起され、それらが基底状態に戻る際に発光を伴うことで、980nmの励起エネルギーよりもより大きなエネルギーの光としてアップコンバージョン発光(光子のエネルギーが上方変換される)が起きます。ErやHoでは緑や赤、Tmでは青色の発光が可能です。

赤、緑、青で光るアップコンバージョン蛍光体を樹脂中に分散させ、そこに980nmの赤外レーザーを照射することで赤、緑、青のそれぞれを発光させることができます。

緑や赤は980nmの光子2つを使う2段階励起によって発光し、青は光子3つを使う3段階励起によって発光します。励起光のエネルギー密度が2倍になると、2段階励起や3段階励起のそれぞれが2倍になるため、緑と赤の発光は4倍に、青の発光は8倍になります。そのため励起光を集光させると、焦点位置では高い励起光密度になり強い発光が得られますが、それ以外の位置では励起光の密度が低くほとんど発光しません。例えば焦点位置を円を描くように描画すると、リング状に立体的に発光します。この性質を利用して、ある体積中に点発光をさせることができ、3次元的に描画できる3Dボリュームディスプレイへの応用が期待されています。