東海大学 勝又研究室

有機フッ素化合物の分解を利用した遷移金属酸フッ化物の合成

複合アニオン化合物では、2種類のイオンが導入されたことに起因する、特徴的な結晶構造を持っています。しかし、これらは一般的な回折法では捉えることができません。 図1はペロブスカイト型酸フッ化物、BaInO2Fの15Kでの粉末X線回折図とリートベルト解析の結果です。平均構造を反映するX線回折図は立方晶ペロブスカイト型構造に基づいた結晶構造モデルで良いフィティングが得られます。一方、回折図をフーリエ変換することで得られる拡張2体相関分布関数については、rが8 Å以上の領域では立方晶の構造モデルをもとに計算下で良い一致が見られたものの、 rが8Å以下の領域では測定データを再現することができません(図2)。これはrが8 Å以下の局所構造は立方晶で再現できない事を示唆しています。そこで、rが8Å以下の局所構造について、BX6 八面体の回転を考慮したより対称性の低い結晶構造モデルを用いてフィッティングを試みたところ、三斜晶の構造モデル測定結果を良く再現できることがわかりました(図3)。これらの結果から、BaInO2Fでは、局所的には、BX6 八面体が回転した歪んだペロブスカイト型構造をしているものの、価数の異なる陰イオンが確率的に分布することによって、陰イオン変位の長距離秩序が打ち消され、平均構造を反映するX線回折図では立方晶構造としてフィッティングできたと考えることができます。
  この様に複合アニオン化合物の結晶構造を理解するためには、平均構造だけでは不十分であり、2体相関分布関数など近距離での局所構造も含めて議論することが必要です。

T. Katsumata et al., J. Solid State Chem., 279(2019)120919 

新規ペロフスカイト型酸フッ化物の合成とキャラクタリゼーション

ペロフスカイト型酸化物は化学式ABO3であらわされ、図1のような構造をしています。この酸化物は、強誘電性、強磁性、電気伝導性、イオン伝導性など多彩な物性を示し、A、Bイオンの組み合わせを変化させることでこのような物性をコントロールできることから様々な分野で応用されています。
  しかし、A、Bイオンの組み合わせには限界があり、すでに多くの研究がなされいるこれら化合物群の中から新しい化合物を探索、合成することは容易ではありません。そこで私たちの研究グループでは、陰イオンに異なるイオン種を導入した複合陰イオンペロフスカイト型化合物に着目しました。これら化合物ではA、Bイオンの組み合わせに、さらに陰イオンの組み合わせが加わることから、可能である化合物の範囲が大きく広がります。
  ペロフスカイト型酸フッ化物はこのような複合陰イオンペロフスカイト型化合物の1つです。これまでの研究では、その合成が報告されているものの、結晶構造や物性について詳しく調べられていない化合物がほとんどでした。私たちのグループではこのような化合物についてその結晶構造、物性を調べることで、これら化合物の機能性材料としての可能性について検討し、また新しいペロフスカイト型酸フッ化物の合成にも取り組んでいます。これまでに、PbFeO2F(正方晶)、PbScO2F、BaInO2F、SrMnO2Fなどの新規化合物の合成に成功しており(図2)[1,2]、また(1-x)BaTiO3-KTiO2F固溶体を合成し、x=0.15で緩和型強誘電体となることを明らかにしています(図3)[3]。

[1] Crystal and magnetic structures of high pressure perovskite-type oxyfluorides, PbFeO2F and 0.5PbFeO2F-0.5PbTiO3 [Pb(Fe0.5Ti0.5)O2.5F0.5], Tetsuhiro Katsumata, Akihiro Takase, Masashi Yoshida, Yoshiyuki Inaguma, John E. Greedan, Jacques Barbier, Lachlan M. D. Cranswick, Mario Bieringer, Mater. Res. Soc. Symp. Proc. 988E, 0988-QQ06-03 (2007).
[2] Synthesis of novel perovskite-type oxyfluoride, PbScO2F, under high pressure and high temperature, Tetsuhiro Katsumata, Mamoru Nakashima, Hiroshi Umemoto, Yoshiyuki Inaguma, J. Solid State Chem., 181, 2737-2740 (2008).
[3] Structure and dielectric properties of high-pressure perovskite-type oxyfluorides, xKTiO2F-(1-x)BaTiO3, Katsumata, Hiroshi Umemoto, Yoshiyuki Inaguma, Desheng Fu, Mitsuru Itoh, J. Appl. Phys, 104, 044101-1 - 044101-8 (2008).

有機フッ素化合物の分解を利用した遷移金属酸フッ化物の合成

これまで、遷移金属酸フッ化物の合成は、酸化物、フッ化物を出発原料とし固相法で合成する方法、金属フッ化物の分解によって発生するフッ素ガスを利用しフッ化するた方法などで合成されてきましたが、フッ化物の揮発、不純物の残存などの問題で高純度試料の合成が大変でした。また酸化物前駆体をフッ素ガス、フッ化水素ガス中で加熱する方法もありますが、いずれも有毒ガスであるため、特別な設備を用意する必要があります。一方、有機フッ化物であるポリフッ化ビニリデンの分解を利用することで、これまで合成が困難だと考えられてきた遷移金属酸フッ化物が、容易に合成できることが報告されました。そこで我々の研究室では、この方法を利用した新規遷移金属酸フッ化物の合成、そのキャラクタリゼーションに取り組んでいます。


高温・高圧を利用した新規機能性酸化物の創製

〜 学習院大学理学部 稲熊宜之教授との共同研究 〜
 私たちの研究グループでは、高温・高圧を利用した新規機能性酸化物の合成、キャラクタリゼーションにも取り組んでいます。最近では、LiNbO3型酸化物に着目し研究を行っており、新規極性酸化物ZnSnO3の合成やMnTiO3、MnSnO3の電気磁気効果の発見に成功しています(図4-6)。

fig4-6.jpg

A polar oxide ZnSnO3 with a LiNbO3-type structure, Yoshiyuki Inaguma, Masashi Yoshida, Tetsuhiro Katsumata, J. Am. Chem. Soc., 130, 6704-6705,(2008).


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