人工的脱ガス前後の,ニオス湖およびマヌーン湖(カメルーン)に溶存するCO2の変動

日下部実,大場武,イッサ,吉田裕,佐竹洋,大泉毅,W.C.エバンス,G.タニエケレ,G.クリング

論文要旨

過去21年間に亘る,定期的な観測結果に基づいて,カメルーンのニオス湖およびマヌーン湖に溶存するCO2が,人工脱ガスにより,どのように変動したか記述する.湖水爆発が起きた直後のCO2分布は,1986年10月と11月に行ったCTDデータにより推定された.CO2分布の時間変動にもとづいて,湖水の溶存CO2量とその変化を計算した.人工脱ガスを行う前のデータに基づいて計算したところ,ニオス湖においては,CO2の供給速度は,1986-2001年にかけて,ほぼ一定であったが,マヌーン湖においては,1986-1996年の期間で高く,1996-2003年の期間では相対的に低下した.マヌーン湖において,2003年1月の58m深におけるCO2濃度は,飽和に非常に近かった.この状態は,湖水爆発のメカニズムを考える上で示唆をあたえている.すなわち,なんらの外的な引金無しに,自然発生的に湖水爆発は起きうる.
 人工脱ガスは,ニオス湖においていは2001年3月,マヌーン湖においては,2003年2月に実施され,湖水に溶存するCO2の量は目に見えて減少し始めた.最近のCO2量は,両湖おいて,湖水爆発が起きた直後の推定量よりも少ない.マヌーン湖では,2006年2月から脱ガスパイプが増設され,パイプ深度を増したために,脱ガス速度は大きく増加した.現在のCO2量は,脱ガス開始時の約40%にまで低下した.一年後には,高CO2濃度の湖水層上面が,パイプの取り込み口である95mよりも低くなり,脱ガス速度は次第に低下すると予測される.マヌーン湖のCO2量をできるだけ低下させるためには,深い湖水層を強制的に湖水面に運ぶことのできる装置の設置が望まれる.
 2001年の人工脱ガスの開始により,ニオス湖でもCO2量は低下した.現在の量は,1986年に湖水爆発が起きた直後よりもわずかに少ない程度である.しかしながら,現在のCO2量は,2001年1月に記録された過去最大値である,14.8 G molの80%までしか低下していない.2,3年以内には,高CO2濃度の湖水層上面はパイプの取り入れ口である203mのレベルまで低下するかもしれない.その後は次第に脱ガス速度は低下し,湖水に溶存するCO2を取り除くには,数十年の時間が必要となろう.地域住民の安全を確保するには,脱ガスパイプを増設し脱ガス速度を増加させる必要がある.



ニオス湖に設置された脱ガスパイプから放出される深層湖水.